オッス!オラ吐瀉夫!
以前、こちらの記事でも紹介した暗殺者グレイマンシリーズ。
その記念すべき第一作目である「暗殺者グレイマン」について長々と語ります。覚悟しろよ!!
『暗殺者グレイマン』とは
身を隠すのが巧みで、“グレイマン(人目につかない男)”と呼ばれる凄腕の暗殺者ジェントリー。CIAの特殊活動部に属していた彼は、突然解雇され命を狙われ始めたが、追跡を逃れて今は民間警備会社の経営者から暗殺の仕事を受けている。だがナイジェリアの大臣を暗殺したため、兄の大統領が復讐を決意、やがて様々な国の暗殺チームがグレイマンを標的とする死のレースを開始した! 熾烈な戦闘が連続する冒険アクション小説。
「暗殺者グレイマン」より引用
この第一巻では、2名の中心人物が物語のカギを握る。
CIAから突如、発見次第射殺のオーダーが下り、追われる身となった後、民間セクターで数々の難関たる殺しを成し遂げ、その殺し屋らしからぬ正義に基づいたターゲット選定も相まって、裏社会でその名前を轟かせる男、コートランド・ジェントリー。
そして調教師(ハンドラー)と呼ばれる、殺し屋の契約をふるいに掛け、情報および物資・人的支援を調達し、依頼人から代金を徴収し、殺し屋に報酬を支払う仲介人である男、サー・ドナルド・フィッツロイ。
サー・ドナルド・フィッツロイ(通称:ドン)は英国の内務省情報保安局MI5にてテロ対策の仕事に30年勤め、功績を認められ騎士の称号を受ける。その後、民間警備会社チェルトナム・セキュリティ・サービスを立ち上げる。
殺ししか知らないジェントリーがCIAを抜けた後、民間セクターの殺しを請け負ったのは当然の流れだった。
そんな彼が、ドンから請け負った仕事で、ナイジェリアのエネルギー大臣を暗殺したことが今回の物語の発端。
チェルトナム・セキュリティー・サービスを超える巨大大企業ローラン・グループが癒着関係にあるナイジェリアの大統領ジュリアス・アブバケルは、ジェントリーが暗殺した大臣の兄だった。
アブバケルは全権力を持ってして、ジェントリーの首を手に入れることを決意。癒着関係にあったローラン・グループの後ろ暗い部分を暴露すると脅迫し、ローラン・グループは総力を挙げて、ジェントリーを狩るため、世界各国の暗殺部隊に協力を依頼。
ドンおよび、その家族を人質にローラン・グループはジェントリーを呼び出す。
一体何が熱いのか
このあらすじを見て分かる方もいるかもしれませんが…
普通プロの殺し屋なら、仕事の仲介人とその家族なんて助けないじゃないですか。
それを助けに行っちゃうのがグレイマン!コートランド・ジェントリーなんですよ!!
正直、ここは好き嫌いが分かれると思います。リアリズムを求めるなら設定自体に難があるというか現実的じゃないので。
だからこそ、コミックヒーローのように熱く、正義に生きる凄腕の暗殺者ヒーロー小説足り得る!
小説を普段読まない僕でも、挿絵無しの470ページを読み進めちゃうわけです。
ドンと罪のない家族を助け出すため、民間セクターに堕ちたフリーランスの殺し屋を待ち受けるのは、ローラン・グループが打ち出した賞金を目当てに発展途上国政府より派遣された各国のエリート暗殺チーム。
その数はリビアチーム、ボツワナチーム、インドネシアチーム、ベネズエラ、南アフリカ、サウジアラビア、アルバニア、スリランカ、カザフスタン、ボリビア、リベリア、韓国の12カ国。
発展途上国ではあるが、紛争が絶えず行われる国ゆえ、どれも一線級の実力の精鋭達。それらが、イラクからエクスフィルしたジェントリーがドン達が幽閉されているフランスのシャトーまでに襲いかかる。
フランスまでの国境越えに備え、銃器無しでヨーロッパ入り。各武器の確保をするため秘密の武器庫や、支援者を頼ろうとするが、家族の命を優先したドンに裏切られ、情報をローラン・グループに流され、奇襲を受け続けるジェントリー。
CIA時代の元教官モーリスとの再会と別れ
ジェントリーはジュネーブで、CIA時代の教官モーリスを頼り、彼の家に行き、助けてもらうんですが、もうここが素敵すぎる…。
ジェントリーがCIAから追われる身になった後、モーリスはCIAから不正を理由に解雇をされ、アメリカからここに移り住み、金融の仕事をしていた。
しかし肺と肝臓の病気に蝕まれ余命半年を告げられ、半ば隠居生活を続けていたが今も各装備を整えていたため、その装備を提供してくれます。
その時の別れのシーンのやり取りがこちら…!
ジェントリーはいった。
「また会いましょうといえたら、どんなにいいか。あす切り抜けたら、しばらく地上から姿を消しますよ。医者に治療費を払わなかったら、いつかまたビールが飲めるかもしれない。」
モーリスが頬をゆるめたが、笑い声はしなかった。
「私は死にかけているんだ、コート。豚に口紅を塗ってもしかたがない。きれいに見せることはできないんだから。
「何か、俺にできることはありますか?会いにいってもらいたい人間は?あなたが逝ったあとで訪ねる相手は?」
「誰もいない。家族も友人もいない。あるのはCIAだけだ」
「その気持ちはよくわかります」
ジェントリーはいった。自分と同じような事を人生でくぐりぬけてきた相手と話ができたという面では、師匠とあったのは良いことだった。しかし、悪い面もある。暗い気分になるのだ。
未来の自分を見ているようでジェントリーが切なくなるシーン。
そこでモーリスは更に続けます。
「一つだけ頼みがある」
言いながら、モーリスは笑みを浮かべた。
「この惨状から抜け出したら、どこかに南洋の島にでも逃げてくれ。名誉をなくしたおいぼれのアメリカ人銀行家が、スイスで死にかけているという記事が新聞に載ったら、どこでも好きな酒場に行って、キレイな女の子を見つけ、夜通し飲んでくれ。本気だぞ。これをくぐり抜け、この暮らしから逃れられたらの話だ。この世にはまだ、それまでなにをやってきたかなんてことは誰も気にしない場所が残されている。そこへ行け。誰かと出会え。人間らしく暮らすんだ。私のためにそうしてくれ。」
「やってみます」
「いつか悟る時がくる。自分がやってきた事、過去にやって、終わり、葬り去られたと思うことすべてが──置き去りにしたと思っていたことが、そうじゃなかったと。そういう物事は、ただ溜め込んでいただけだ。自分と静かな部屋と記憶、自分が殺した悪霊しかなくなった時のために、どこかに保存してあったのさ」
自分と同じ道を歩んでほしくないと思ったであろうモーリスは、人間らしい生き方をジェントリーに歩むよう伝えます。
決して幸せにはなれない茨の道であることを、彼は知っているのです。そして、それはきっとジェントリーも分かっている…しかし、彼の正義はそれだけじゃ歩みが止められないのでしょう。
そんな中、モーリスの家が包囲されていることにジェントリーとモーリスは気づきます。
武器と情報を提供したモーリスを各国のAチームが見逃すわけがなく、ジェントリー同様に危険が迫ります。
モーリスは予め用意していた脱出用の排気口の存在と、どこに繋がっているのか、脱出手順を教えますが、ジェントリーが一緒に脱出しようと提案すると、それを拒みます。
「私は死ぬことを恐れたことは一度もなかった、コート。だが、何の役にも立たずに死ぬかと思うと、本当に腹立たしい。ヴェトナムで戦友たちと同じように、銃弾を受けて死んでいたら、死ぬ甲斐はあっただろう。CIAの仕事で死んだら、それも名誉ある死だったはずだ。当時の私達の働きに大きな物事が左右されていたのだから。私が言う意味は分かるはずだ。しかし、ジュネーブのこの家でじっとして、テレビのチャンネルをあちこちに変え、肺が最後の咳をしたり、肝臓がついにいかれるの待っているのは…あまり高貴とは言えないのでね」
ジェントリーはよく分からず、何を言っているのか分からないと答えます。そこでモーリスはこの窮地に自分の死に場所を見つけ、真意を語ります。
「お前のために死ぬと言っているんだよ。この四年間、お前はCIA全体がやってきたよりもずっと多くの正しいヒット(殺し)をやってきた。窮地に陥った時には、誰かに助けてもらって当然だ」
ジェントリーがCIAから抜けた後もモーリスはずっと教え子の行動を見守っていた。
モーリスは最高の弟子のために、自分の命を投げ打つ覚悟をしていた。
そして、それはある種の贖罪でもあった。
「あなたのことは忘れない」
モーリスがにっこり笑い、上を指差した。
「私が検問を潜り抜けて天国に行けたら、あそこのボスにお前のことを一言推薦しておく。死後もお前の痩せこけたケツを救ってやれるかどうか、やってみるよ」
迫りくる戦闘に向けて心を鬼にしている二人はぎこちないハグをした。モーリスが言った。
「あとひとつ。私を好ましく記憶していて欲しい、悪い面を考えないで…ひとつやふたつ、私が途中で過ちを犯していたとしても」
「あなたは俺のヒーローだ。それは絶対に変わらない」
そう言って二人は別れ、ジェントリーはモーリスの教えてくれた武器の保管庫へ向かい、モーリスは突入してくる特殊部隊に取り押さえられる。
モーリスの家から爆発音が聞こえた瞬間、ジェントリーは歩を緩めたものの、更に勢いをつけて前に進んだ。
ジェントリーが噂で聞いた、モーリスがCIAから解雇された理由は資金の横領だった。それを信じていないジェントリーだったが、武器の保管庫に到着した時、それが事実だということを確信した。
圧倒的なまでのヘヴィメタル。銃火器の宝庫。10万ドルは下らない最高級の車。モーリスは資金を横領していたのだった。
しかし、ジェントリーはこう言った。
「ありがとう、モーリス 俺のヒーロー」
各地をめぐり、ろくな装備を得ることが出来ず、傷を負い、体力を消耗してきたジェントリーはやっとここで強力な武器を手にする。
ジェントリーは師匠の過ちで生まれたこの銃火器で、ドン達を救い出すことで、その罪を代わりに償おうと誓った。
そして決戦の地フランスへ
強力な装備を得たものの、ジェントリーがやっとフランスに到着した時には、手首には裂傷、足には銃撃を受け、肋骨は折れていたところで、今作最強の殺し屋の韓国人に腹をナイフで刺されてしまう…。
もうね…ボロボロですよ…。
なんとかドンのネットワークの獣医助手に協力を依頼し、もう時間がない中、移動中の車の中で輸血しながら、麻酔無しで縫合してもらいながら運転するジェントリー。
運転中に意識を失っちゃうんですけど!
意識を取り戻し、ドンが幽閉されているシャトーへ潜入するジェントリーは、相手陣営にバレないようにAチーム相手に一発の発砲もさせずに、3人の工作員を打撃だけで殺します。(結構殺し方がエグい)
この野獣のような格闘シーンや、銃撃シーンが暗殺者グレイマンの見どころでかなり細かく描写されているんですよ。映画のようにシーンが切り替わりつつ、バトルシーンとなると細かくリアルな描写。
生々しい戦いに引き込まれる…!
痛みの表現がことさらリアルで、例えばナイフで刺された時のジェントリーはオシッコ漏らすし、涙目になりながら相手の韓国人暗殺者を殺すシーンや、縫合の前に痛みを想像して涙を流すシーンなど、決して無敵じゃないボロボロの等身大ヒーローなんです。
最後のオチが秀逸
最後はネタバレになるので語りませんが、大きな組織の掌で踊らされているに過ぎないことを突きつけられる感じなるのですが、それはそれでフフってなるんですよね。
しかし確実に続編につながるオチなので期待してしまいます。
今作には元上官でありライバル的存在でもあるザック・ハイタワーやヒロインらしいヒロインも出てこないのですが、元教官のモーリスとの熱い絆や、サー・ドナルド・フィッツロイの孫娘クレアとのやりとりなど、心にぐっと来る、ジェントリーの人間臭さがしっかりと描かれている「暗殺者グレイマン」シリーズの原点として、ふさわしい作品です。
設定はファンタジー!だが描写は限りなくリアルで泥臭い!傷だらけのヒーロー!
それがグレイマンことコートランド・ジェントリー。
漫画しか読まない僕でもガンガン読めちゃうオススメ作品なので、是非一度読んで欲しい作品です。
今度は続刊をどこかで語らせてもらいます!
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